高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に選出され、日本初の女性総理が誕生したのは2025年10月下旬のこと。2026年2月には第2次高市内閣が発足し、日本維新の会との連立政権で、経済安全保障や「責任ある積極財政」を掲げている。首相就任数カ月の言動を海外はどう評価しているのか。ICU教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)が解説する――。
首相就任5カ月、海外からの評価とは
高市早苗が内閣総理大臣に就任してもうじき5カ月が経過する。
2026年2月の総選挙で歴史的大勝を収め、日本初の女性首相として圧倒的な議席数を誇る政権を築き上げた。台湾有事に関する踏み込んだ発言、サプライズ衆院解散、そして自民の全衆院議員315人に当選祝いとしてのカタログギフト贈呈……そうした「型破り」な政権運営は国外にも報じられている。
国内の支持率は依然として高い水準を維持している。しかし、日本の国境の外に目を転じれば、その評価ははるかに重層的だ。世界が高市早苗をどう見ているかは、地政学的チェスボード上のどこに立っているかなどによって、まったく異なる風景を呈している。
海外の政治家・メディア・識者の動向をウオッチしている筆者が現状の高市評を整理してみたい。
高市首相を大歓迎した国
民主主義の弧:東南アジア、豪州、カナダ、米国、EU
日本の友好国および条約同盟国にとって、高市の登場は慎重な楽観主義、いや率直な歓迎をもって迎えられた。最も示唆的なシグナルは、ワシントンでもキャンベラでもなく、シンガポールから発せられた。
中国が高市を「危険な超国家主義者」「帝国主義時代の軍国主義復活を企てる指導者」として描く大規模な偽情報キャンペーンを展開した後、シンガポールのローレンス・ウォン首相が行った演説は、事実上の北京への外交的反論であった。
ウォン首相はASEANが日本を「最も信頼できるパートナー」と見なしていること、戦時中の過去は数十年にわたる対話、外交、そして人と人との交流を通じて克服されてきたこと、そして強い選挙の信任がもたらす安定を地域が歓迎していることを明言した。
その行間に込められたメッセージは明確だった――東南アジアは、対日情報戦に加担するつもりはない。
この認識は「民主主義の弧」全体に広く共有されている。オーストラリアは「相互アクセス協定」やクアッドの枠組みを通じて日本との安全保障体制を深化させており、高市を防衛協力とサプライチェーンの強靭化を加速する指導者として見ている。
キャンベラの戦略コミュニティは、防衛費と同盟運営について難しい決断を下せる首相を日本が必要としていると長年主張してきた。選挙での信任を得た高市はまさにその指導者だと映っている。
カナダはインド太平洋の安全保障問題について伝統的に控えめだが、更新された「インド太平洋戦略」を通じて、高市政権下の日本をルールに基づく秩序の重要な支柱と位置づけるシグナルを送っている。
米国においては、打算的でありながらも根本的に好意的な見方がなされている。トランプ政権は日本にGDP比3.5%の防衛費を要求しているが、米国の防衛計画立案者たちは、高市がその目標に向けて動くだけの政治資本とイデオロギー的確信の両方を持つ稀有な日本の指導者であることを認識している。
令和7年10月28日、高市総理は、迎賓館赤坂離宮でアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領と首脳会談を行いました(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
ワシントンは彼女を従順な従属者ではなく、兵器の共同生産や造船能力の共有、西太平洋での抑止力への実質的な貢献ができるパートナーとして見ている。ロシアのウクライナ侵略と自国の再軍備論争に忙殺される欧州各国の首都にとっては、高市政権下の日本は民主主義的決意のモデル、いわば成熟した民主国家が多国間へのコミットメントを放棄することなく、強い指導者を選出し戦略的自律を追求できると見ている。
民主主義陣営全体を通じて、圧倒的多数の支持を得て女性首相が選出されたこと自体が象徴的な意味を持っている。それは日本の政治文化が進化していること、有権者が時代が求める時に“伝統”を打破できること、そして日本の未来が慣習ではなく能力によって形作られていくことを示すシグナルだ。
これらの国々が何より望んでいるのは、かつての短命な首相の「回転ドア」に悩まされてきた日本に、ようやく長期的な安定が訪れることだ。
故安倍晋三首相の遺産としての高市早苗
インド:安倍遺産とインド太平洋の野望
インドは独自の範疇を占めている。ニューデリーの戦略コミュニティは、きわめて特定のレンズを通して高市を見つめている。それは故安倍晋三首相の遺産だ。
日印関係を儀礼的外交から真の戦略的パートナーシップへと引き上げ、「自由で開かれたインド太平洋」構想を唱え、インドを周辺的プレーヤーではなくアジア秩序の共同設計者と見なしたのは安倍だった。
インドの政策立案者や論客にとって、高市に関する核心的な問いは、安倍のビジョンを継続し深化させるかどうか、この一点に尽きる。
ニューデリーの視点からすれば、初期の兆候は心強い。高市のイデオロギー的系譜は安倍に直接つながり、経済安全保障と技術主権への重点はインド自身の野心と軌を一にし、中国の強圧を率直に名指しする姿勢は、2020年に人民解放軍との間で死者を出す国境衝突を経験した国に共鳴するものだ。
インドは楽観と期待をもって高市を見ている。二国間関係が優先されるという楽観、そして日本がインドのインフラ整備、防衛近代化、半導体サプライチェーンへの投資を継続するという期待だ。インドにとって高市は、東京がこの一世代で提供した最も生産的な戦略的パートナーシップの継続を意味している。
令和7年11月23日(現地時間)、G20ヨハネスブルグ・サミット出席出席後、インド共和国のナレンドラ・モディ首相と会談(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
援助と投資の継続を望む
グローバルサウス:知識不在のなかのステレオタイプ
特にアフリカ諸国、中南米の一部、小規模な太平洋島嶼国といったグローバルサウスの多くの国にとって、高市早苗は率直に言って未知の存在にとどまっている。
これらの国々が受け取る日本国内政治の報道は限られており、しばしば表層的だ。わずかに届く情報は、ステレオタイプと文化的な定型表現によって形作られている。「日本が女性サムライ首相を選んだ」という目新しい見出しが一時的な好奇心を呼ぶが、持続的な分析にはつながらない。
これは敵意から生まれる無関心ではない。単なる情報の非対称性という現実だ。TICAD(アフリカ開発会議)などの枠組みを通じて日本と開発パートナーシップを結んでいるアフリカ諸国が関心を持つのは、援助と投資の継続であり、新首相の靖国神社に関する立場のイデオロギー的ニュアンスではない。
日本の開発資金が流れ続けるか、インフラ事業が完遂されるか、東京が北京の「一帯一路」に代わる信頼できる選択肢であり続けるか。彼らは高市をこれらの基準で判断する。高市の政策が自国の利益に直接影響を及ぼすまで、グローバルサウスは判断を留保し続けるだろう。その印象は、綿密な研究からではなく、国際メディアを通じてたどり着く断片的な物語から醸成されることになる。
歪んだイメージを作り上げ自国民を煽る
侵略の枢軸:中国、北朝鮮、ロシア
高市の描像が最も歪められ、最も意図的に兵器化されるのは、CRINK――中国(China)、ロシア(Russia)、イラン(Iran)、北朝鮮(North Korea)の4カ国においてである。
中国は高市を、真の警戒と打算的な日和見主義の揮発性混合物をもって見つめている。北京は、台湾問題における彼女のタカ派姿勢、強化された抑止力の提唱、そして中国を戦略的挑戦として名指しする姿勢に対して正真正銘の懸念を抱いている。
しかし同時に、中国共産党は高市のプロフィールがプロパガンダ上の贈り物であることも認識している。北京は数十年にわたり、日本を「悔い改めない軍国主義国家」という“物語”の中で語ってきた。
安倍との結びつき、靖国参拝の経歴、率直なレトリックを持つ高市は、中国国営メディアが最小限の労力で操作できる原材料を提供する存在だ。その主目的は日本を国際的に孤立させることではない。
第一の目的は国内向けだ。ナショナリズム感情を煽り、経済停滞から国民の目をそらし、歴史的な敵から中国を守る守護者としての中国共産党の正統性を強化すること。北京は日本が平和的な民主主義国家であることを十分に知っている。
しかし、日本軍国主義の神話を長年にわたって構築してきたがゆえに、保守的な女性首相の登場は、使わずにいるにはあまりにもったいない存在なのだ。
令和7年10月31日(現地時間)、APEC首脳会議に出席するため韓国を訪問中の高市総理は、中華人民共和国の習近平総書記(国家主席)と首脳会談を行いました(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
北朝鮮は同じ台本に基づきながら、より鋭い実存的動機をもって行動する。平壌は金体制の全体主義的支配を正当化するために常に外敵を必要としてきたが、日本は長くその役割を果たしてきた。
高市のタカ派的イメージは、北朝鮮国営メディアが次のような“ストーリー”を構築することを可能にする。日本の帝国主義的な過去は歴史的記憶ではなく、現在進行形の現実であり、朝鮮半島の分断を説明し正当化する未完の事業である、と。強く自信に満ちた日本の首相は、平壌にとって、脅威はいまだ去っておらず朝鮮人民は指導者のもとに結束せねばならない証拠なのだ。
ロシアは、長期的な構造的衰退と国際的影響力の低下に直面する大国として、中国と同様のアプローチを取りつつも、異なる戦略的理由に基づいて行動する。モスクワは高市を軍国化に邁進する指導者として描くが、その特徴づけが虚偽であることを十分に承知している。
その目的は3つある。敵対勢力に包囲されていると喧伝し国内ナショナリズムを醸成すること、深化する中露連携の一環として中国のプロパガンダを補完・増幅すること、そして最も重要なのは、日本の防衛力近代化を地域の脅威への対応としてではなく、ロシア・中国との米国の戦略的競争の一環として枠づけることだ。モスクワにとって、高市は日本の問題ではない。ワシントンとのより大きな争いにおける、都合のよい舞台小道具なのだ。
高市早苗を報じるのではなく「創り上げる」
結論:希望と歪曲のはざまで
世界は高市早苗をどう見ているか。
これは結局のところ、世界自身の分断を映す鏡にほかならない。日本の友好国と同盟国(シンガポールからキャンベラ、ニューデリーからワシントンまで)にとって、彼女は希望、安定、そしてかつて故安倍晋三が体現した断固たる長期的リーダーシップの再来を意味する。中国と米国の双方に対してバランスを取りながらルールに基づく秩序を守る。そうしたリーダーシップへの期待だ。
一方、CRINKの侵略の枢軸にとっては、高市はもっぱら対米戦略的競争のレンズを通してのみ眺められ、その姿は各国内のプロパガンダと地政学的工作に奉仕するよう意図的に歪められている。高市の実像は決して伝えられない。
この2つの肖像の間にある溝は、国際報道の真実性を少しでも気にかける者にとって、深い懸念を呼び起こすはずだ。中国国営メディアに存在する「高市」と、官邸に存在する「高市」は、まるで別人だ。どちらが真実でどちらが捏造かを見極めることは簡単なことではなく慎重にならざるをえない側面がある。
古い諺が警告するように「百聞は一見に如かず」だ。だが、現代の地政学においては、それすらも十分ではない。なぜなら、国家とそのメディアは外国の指導者を「報じる」のではなく「創り上げる」のだから。
見ているものが現実なのか、それとも誰かの利益のために製造されたものなのかを問い続けること――それこそが、情報の時代における最も基本的なリテラシーである。
First Published with President Online March 9th, 2026 https://president.jp/articles/-/110035





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